2010年12月
1泊2日 ナポリ、シチリア
1泊2日で、ナポリとシチリアに行ってきました。
スミマセン。ちょっと大げさに言いました。そんな夢のような話ではありませんが、それに匹敵するつかの間のトリップでした。
ジラソーレの創業時から、5年当店に努めてくれた、ガミちゃん事、大神君。九州の博多で、オステリア オオガミというレストランをやっております。
オープニングを手伝いにいって以来、彼の料理を食べていないので、1周年辺りで襲撃して、思いっきり師匠風ふかしに行こうと思っていたのですが、近いようで遠い九州、なかなか実現できず、やっと11月の下旬に行ってきました。
今回も、もうひとつのきっかけが無かったら、伸ばし延ばしになっていたかもしれません。
ただ今、ジラソーレでは、今まで血眼になって探していた、ナポリ独特の野菜や、イタリア野菜を仕入れています。
九州でナポリの野菜を作っていると、イタリア人から直接売り込みの電話があり、福岡のスーパーシェフ、アンティカ オステリア トトさんの本田シェフのご紹介だとの事。
フィアリエッリやスカローラ、ブロッコリー ディ ナターレ等、今まで夢にまで見ていた野菜を作っていると豪語する、このナポリ人シルヴィオ。半信半疑でサンプルを送ってもらい1通り試食しました。
正直、涙がでました。あーこの辺の野菜が日本で使える日が来るなんて!!!
これを読んだ方は、どれだけこの野菜が美味しいのだろうと想像すると思います。実際かなり美味しく、良くできているのですが、僕は、美味しさにはいくつか種類があると定義しておりまして、
一つは美味しさの数値が高い美味しさ。フォアグラや、和牛がこの代表でしょう。料理でいうとすき焼き等です。
2つ目は、バランス、塩梅の良さの美味しさ。メロンやマンゴーとミカンを比べると、メロン、マンゴーの方が美味しさの数値は高いですが、ミカンがメロンやマンゴーに負けるという事ではありません。ただ、ミカンを美味しく作ろうと、糖度を上げることばかり考えても美味しくなく、ミカンの美味しさは、酸味と甘みのバランス×香りです。
料理でいうと、そばが代表的でしょうか。旨味の数値的にはあまり高くないですが、風味、喉越し、香り、キレ等のバランスで素晴らしく美味しく感じます。
3つ目は、他に代わりがない個性を持つ美味しさ。梅干し、牛蒡、鮒寿司等でしょうか。
八百屋さんで、キュウリと牛蒡どっちが美味しいと質問しても店主は困るでしょう?もちろん、この3つの美味しさの個性をそれぞれかね揃えて、複合的な美味しさの数値がでます。
話は少しそれますが、来店して一言目に今日のお勧めは?と初来店のお客様に聞かれても答えようがないのは、まさにこの理由です。
果物屋さんで、1番美味しい果物どれ?と聞かれてメロンと即答出来るのであれば、僕はメロンの時期はメロンしか売らないと思います。
逆にリンゴが複種あったとして、リンゴを買いたいのですがどれがお勧めですか?と聞かれると、シャキッとしたリンゴと、パキッとしたリンゴどちらがお好みか伺います。
リンゴならこのパキッとしたやつしかあり得ないと思えば、それしか扱わないでしょう。でも世の中には、パキッとしたリンゴを食べると、歯ぐきから血が出る方もいますし、アップルパイを作るからパキッとしてないとだめな時もあります。
情報社会で情報もあふれていますし、商品の選択肢も信じられないくらい多くなりましたが、逆にドンドン生産者と消費者の意識は離れて行っている気もします。
どういう事かと申しますと、物凄い選択肢の様に見えて、意外に選択肢は流行りや、価格競争の方向に集中しています。そうしますと、消費はさらにそちらの方向に集中しますので、生産者側は足並みをそろえて更に、流行りと低価格を追わざるを得ません。
グローバル化への愚痴になりましたが、シルヴィオが作る野菜は、代用がきかない位の明確な個性があり、かといって強烈なドリアンの様な個性でもない独特の香りと風味、後味を持つ野菜なんです。
牛蒡とかレンコンて、これは牛蒡じゃないとダメ、レンコンじゃないとダメってあるじゃないですか?菊菜なんかもそうですね。
こんな感じでシルヴィオと急速に仲が良くなり、しかも紹介してくれたのはあの本田シェフ、これは直接ご挨拶にも伺わないとと思い九州遠征を決めました。
1日目ナポリ。
オステリア オオガミに着いてカウンターに座りました。お昼に伺ったのですが、夜のメニューでおまかせでお願いしておきました。
まず、すごく嬉しかったのがお店がピカピカです。掃除を超えて磨くのレベルです。これは別に姑の様に細かくチェックした訳ではありません。瞬間的に清潔な空間にいると実感できます。
フェラーリのロゼを1本大神君がプレゼントしてくれました。昔はこんな気遣いもなかったなー。
次に又二ヤリとしました。突き出しのオリーヴとタラッリです。タラッリは昨日焼いた味です。(前日に焼いて1番置いたのが1番美味しいです。)オリーヴのマリネもつかり具合が丁度。
これは、うちの元従業員だからべた褒めしてるのではありません。でも突き出しってお金を頂く物じゃないけど、ただ出すだけになったらダメです。これはアミューズでなく、アミューズまでのつまみですから、毎日営業していると、何となく出すようになりがちです。
うちの店でも、口酸っぱく行っていますが、漬かりすぎたオリーヴやちょっと湿気たタラッリお出しするくらいなら、辞めた方がいいと。
当り前の事ですが、掃除も料理も毎日の事です。これ以上は無い、と思えるところまでレベルを上げて、それを当り前とする。
僕が従業員に伝えたいのはこの一言に尽きます。
堅い話になりましたが、1品目の前菜を半分ほど食べ、僕は初めて嫁さんに感情の入った文章のメールを送りました。(いつもは用事の件だけですね。スミマセン。)
まー内容は、期待していた以上に旨い、連れて来てあげたら良かった等です。
これは食べログではないので、何を食べてどうやったとは書きません。でも料理で人を幸せにする。大神君はその段階に入ってきたなと大いに感激しました。
もちろん技術的にもまだまだ、伸びていかなければならない事もあるでしょうが(もちろん僕も)伸びていく方角は正しいのではないでしょうか。
彼が、当店で働いてくれていた事を誇りに思う再開でした。
まー、フェラーリのロゼ1本分くらい褒めてあげて、早速師匠風ふかしまくりました。この日僕の為に、大神君は夜の営業を休み(決して強制しておりません。自主的に休みました)、車で一緒にシルヴィオの所へ行きました。無理やり大神君の所のスタッフ全員を連れて。。。(一応デートの約束が無いか位は聞いたと思います)
予定より1時間くらい遅くなり、何とか暗くなる前にシルヴィオの畑に着きました。会うのは初めてですが、電話ですでに何度も喋っていたのですぐバーチ(イタリア式あいさつのキス、ホッぺトゥーホッぺです。もちろん)
すぐに暗くなりそうだったので暗くなる前に急ぎ足で全畑を見て回りました。しかし、産地めぐりはサイコーです。
市場も料理のアイデアがドンドン浮かびますが、産地はもうトランス状態。真っ裸になりたい衝動に駆られます。その衝動を料理に変換する時のパワーは岡本太郎が乗り移ったかなと、周りを不安にさせてるようです。
シルヴィオとナポリ話や、今後どんな野菜が作りたいとか、どんな野菜が欲しいとかちょっと下ネタとか話してるうち、あっという間に3時間。外はもう真っ暗でした。
翌日は、ガミちゃんとシルヴィオ、シルヴィオの奥さんとアンティカ オステリア トトさんに行くのでこの日はまあまあおとなしくホテルに帰りました。
前日の夜を控えたからか、絶好調でトトさんへ。
基本、僕は酒を飲まないとやや無口です。特に昼の12時を回らないとほんと喋れないのですが、この日はきっちり12時くらいに飲みだしてそのままなんと5時30分まで居座って飲み続けるというKYなグループになっていました。本田シェフ、ほんとスミマセン。。。
まーあまりに料理がハイテンションでそれにつられたと申し上げておきましょう。うちも、大神も、そしてここ、トトさんも(オステリア)と謳っております。共通点は何か?店主が酒飲みで、酒飲みがハッピーになれる料理ですね。
前日、ガミちゃんとこで、1人でワイン2本、本日トトさんで3人で5本と食後酒を飲み続ける僕。飲まし続ける店たち。そしてドンドンあおるイタリア人。
VIVA! OSTERIA!!!
さて、本田シェフのお料理ですが、聞きしに勝る剛腕でした。初めてお会いしたのはシェフが当店にお越し下さった時で、その時は本田シェフの澄んだ眼となんか金色のオーラにすごく惹かれた印象が強かったんです。
そして実際料理をする男の顔は、やはりリアルです。野生動物の様な傭兵のような、戦う男の姿がありました。
そして、すごいのは戦う男の力強さの中に、なぜ戦うのかというデリケートな部分と、何と戦っているのかという明確なテーマが全品に表現されていて、シチリアを強く感じ、そして本田シェフという造り手も強く感じました。
ここでいう(戦い)とは決して暴力的な物ではありません。例えるなら、誰かにさせられている仕事か、産みの苦しみを超えた仕事かの違いです。
同世代で、同じイタリア料理で同じ様に、地方料理に力を入れ、地元愛が強い、共感できる部分が沢山のトトさん。サイコーの料理でした!まさにこんなん食べれたら良いなーと思ってました。
毎日ゼロからはじめ何十皿という料理をつくり、深夜まで片づけをし、またゼロから始める毎日。
心からこの仕事が好きな僕ですが、時折心が折れそうになります。でもこんな素敵な出会いが、又僕を強くし、よーし、負けてられへん!!!とがんばる活力になります。
たった1泊2日の旅行でしたが、ものすごく中身のある最高の旅行でした。ありがとうございました。